退職代行から連絡が来たときの対応と法的ポイント
年明けに増える「退職代行からの連絡」
年明け早々、退職代行業者から突然の連絡を受けた、という相談は、ここ数年で珍しいものではなくなりました。
いわゆる「あけおめ退職」と呼ばれる状況です。
退職代行からの連絡が来ると、
多くの経営者が、少なからずショックを受け、
「なぜ直接言ってくれなかったのか」「裏切られたように感じる」
といった感情を抱くことも少なくありません。
その気持ちは、決して不自然なものではありません。
ただ、その場で
「そんなの認めない」
と感情的に反応してしまったり、
逆に、状況を整理しないまま
「分かりました」と即答してしまうと、
後の対応がかえって難しくなることがあります。
退職代行が入ったからといって、
特別な対応が必要になるわけではありません。
しかし、最初の受け止め方次第で、その後のやり取りの難易度が大きく変わることは、実務の現場でよく見られます。
退職代行が入っても、判断の軸は変わらない
退職は、原則として労働者の意思表示によって成立するものです。
一方で会社としては、
- 誰から、どのような形で連絡が来ているのか
- その連絡を、どの立場として受け止めるのか
- 退職日や引き継ぎを、どの順番で考えるのか
といった点を、一つずつ確認していく必要があります。
退職代行が入ったことで、
確認すべき事項が省略されたり、即断を迫られるわけではありません。
相手の「立ち位置」を見極める(交渉の土俵)
退職代行から連絡が来た場合、
まず確認したいのは「誰が連絡してきているのか」です。
相手の立ち位置によって、会社が取れる対応の範囲が変わります。
民間業者(株式会社など)の場合
民間業者は、本人に代わって「退職の意思を伝える」ことはできますが、
退職日や有給消化などの条件交渉を行う権限はありません**。
これらを行うと、弁護士法上の非弁行為に該当する可能性があります。
そのため、無理な要求があった場合には、
法的な交渉権限がない方とは、条件の合意はできません。
と、静かに一線を引くことが重要です。
弁護士・労働組合の場合
弁護士や労働組合は、本人に代わって交渉を行う権限を持っています。
この場合は、条件面についても協議の土俵に乗ることになります。
「民法2週間」と「就業規則」をどう考えるか
退職代行がよく口にするのが、
「民法627条により、2週間で辞められる」という説明です。
期間の定めのない雇用契約について、
民法627条では、退職の意思表示から2週間を経過すれば雇用契約を解約できる
という原則が定められています。
一方で、就業規則には、
- 円滑な引き継ぎ
- 業務継続への配慮
を目的として、「1か月前」などの申出期限を定めているケースも多くあります。
実務では、
民法を否定するのではなく、尊重したうえで、
法律上の原則は理解していますが、
会社としては現場の混乱を防ぎ、業務を継続する責任があります。
就業規則に基づいた引き継ぎについて、相談させてください。
と、信義則に基づいた話し合いの余地を残すことが重要になります。
退職代行への対応は、淡々と段階的に進める
初動で判断を急ぐ必要はありません。
退職代行業者への対応は、次のようなステップで淡々と進めるのが実務上は適切です。
ステップ1: 受付(即答を避ける)
まずは連絡を受け止め、
内容を確認し、社内で検討したうえで回答します。
と伝え、その場で承諾や確定的な返答をしないことがポイントです。
ステップ2: 書面化(記録を残す)
「言った・言わない」のトラブルを防ぐため、
電話ではなく、メールやFAXなど記録が残る形でのやり取りを求めます。
これは相手を疑うためではなく、
会社としての通常のリスク管理の一環です。
ステップ3: 照会(本人意思の確認)
なりすまし防止の観点から、
- 委任状の写し
- 退職届の原本の送付
を依頼し、本人の最終的な意思としての申出かどうかを確認します。
ステップ4: 条件提示(対案を示す)
すべてを一方的に受け入れる必要も、
逆に一切応じない必要もありません。
例えば、
2週間での退職は認めますが、
社宅の退去手続きや備品返却については、
〇月〇日までに行っていただきたいと考えています。
といった形で、
業務や管理上必要な条件を整理して伝えることは、実務上よく行われています。
また、退職日の確定だけでなく、
- 離職票の発行
- 社会保険の資格喪失手続き
など、退職後に必要となる事務手続きを滞りなく進めるために必要な情報についても、
併せて協力を求めておくことが重要です。
これらは会社側の都合というよりも、
後の手続きトラブルを防ぐための確認事項であり、
事前に共有しておくことで、双方にとって負担を減らすことにつながります。
まとめ|慌てないために、手順だけ持っておく
退職代行は、もはや珍しいことではありません。
だからこそ、特別な対応をしようとする必要もありません。
大切なのは、
「もし今日、退職代行から連絡が来たら、
誰が受け、何を確認し、どこまで判断するのか」
という手順を、あらかじめ想定しておくことです。
相手の立ち位置を確認し、
その場で結論を出さず、
事実関係と事務手続きを一つずつ進めていく。
その準備さえあれば、
退職代行からの連絡があっても、
過度に慌てる必要はありません。
感情に引っ張られず、
淡々と対応できるかどうか。
それが、結果的に
会社と現場を落ち着かせる一番の備えになります。

