休職対応に、会社としての基準はありますか?
休職制度は、会社の“善意”だけで運用できるものではありません。
従業員から「休職したい」と相談を受けたとき、
多くの会社はまず、体調や事情への配慮を考えます。
それ自体は、決して間違いではありません。
ただ実務の現場では、
「配慮したつもりの対応」が、後から問題になるケースも少なくありません。
その原因の多くは、
休職対応を“会社としてどう判断するのか”という整理が、事前にされていないことにあります。
休職制度は法律上の義務ではありません
まず押さえておきたいのが、休職制度の法的位置づけです。
労働基準法をはじめとする労働関係法令には、
休職制度を設けなければならないという規定はありません。
そのため、
会社が休職制度を設けていないこと自体が、
直ちに法令違反になるわけではありません。
つまり、休職制度は
法律で一律に定められた制度ではなく、
会社ごとの判断に委ねられている制度です。
義務ではない休職対応、実務ではどうなりがちか
実務上、休職をめぐるトラブルは、
義務ではない以上、休職対応は会社判断になります。
問題は、その判断が 整理されないまま実務が始まってしまうこと です。
実務の現場では、次のような対応がよく見られます。
- 休職の相談が出てから、初めて就業規則を確認する
- 休職規程がなく、「欠勤扱いでいいのか」と迷う
- 前回どう対応したかを思い出しながら決める
- 担当者や上司によって説明内容が変わる
その場では何とか対応できているように見えても、
後から次のような疑問が生じます。
- なぜこの条件で休職を認めたのか
- 他の社員との取扱いに差はないか
- 会社として、どういう考えで判断したのか
これは、担当者個人の問題ではありません。
会社としての判断基準が整理されていないことによる構造的な問題です。
判断がぶれると、会社は何を失うのか
義務ではない以上、休職対応は会社判断になります。
実務上、問題になるのは
「休職を認めなかったこと」そのものではありません。
判断基準が整理されていないまま対応した結果、
その後の解雇や取扱いについて
会社が合理的な説明をできなくなることです。
裁判例でも、
休職の検討や判断過程が整理されていないことが、
解雇無効や損害賠償の判断につながったケースが見られます。
休職トラブルが拡大しやすい背景
休職をめぐるトラブルは、
就業規則や休職規程の曖昧さをきっかけに、
不当解雇リスクや労使間の感情的な対立へと発展しやすい傾向があります。
特に、メンタルヘルス不調を理由とする休職では、
その傾向が顕著です。
よくあるトラブル例
① 休職期間満了による退職が「不当解雇」と判断されるケース
- 休職期間や通算規定が就業規則に明確に定められていない
- 主治医が「復職可能」と診断しているにもかかわらず、十分な検討なく退職扱いとした
- 休職前後の対応や判断経過を、会社として説明できない
👉
結果として
退職(解雇)が無効とされ、地位確認請求や賃金支払いを命じられるリスクが生じます。
② 復職をめぐる判断を理由に、労使紛争に発展するケース
- 「復職可能」の判断基準が就業規則上整理されていない
- 復職希望に対し、配置転換や業務内容の検討を行わず拒否した
- 医師の診断と会社判断の関係性が整理されていない
👉
結果として
復職拒否が違法と争われ、紛争が長期化・感情的対立に発展します。
③ 休職の扱いをめぐって、会社の判断が否定されるケース
- 欠勤と休職の区別が曖昧なまま対応していた
- 診断書の提出・更新ルールが整理されていなかった
- 休職の開始・継続・終了の判断基準が一貫していなかった
👉
結果として
会社の判断が「恣意的」「公平性に欠ける」と評価され、
懲戒・解雇・退職の有効性が否定されるリスクが生じます。
これらのトラブルに共通しているのは、
休職そのものではなく、「判断の基準」が整理されていないことです。
休職制度は法律上の義務ではありません。
だからこそ、判断を誤ると、
- 「なぜそう判断したのか」を説明できない
- 過去の対応との整合性が取れない
- 結果として会社の判断そのものが否定される
という事態に陥りやすくなります。
こうしたトラブルを防ぐために、
休職規程が果たす役割は決して小さくありません。
休職規程は、判断の重要な物差し
休職規程は、
社員を休ませるための制度というよりも、
会社が判断するときの基準を形にしたものです。
判断が人やその場の空気に左右されないためには、
少なくとも次の点を整理しておく必要があります。
- 休職事由
「業務外の傷病により通常の労務提供が困難な状態」など、具体的に定義する - 休職期間
1〜2か月では短すぎ、3〜6か月以上を目安とする
再休職時の通算規定も明記する - 復職判断基準
「通常の業務を支障なく遂行できる状態」など、客観的な表現で整理する - 手続きの透明化
会社指定医療機関や産業医面談を取り入れ、診断書のみで判断しない - 復職支援
リハビリ出勤、短時間勤務など段階的な復職支援を検討する - 休職中の取扱い
賃金、社会保険料、住民税の扱い
休職適用外となるケースの線引きを明確にする
これらを整えることで、
公平で透明性のある運用が可能になります。
「基準がある」と言える状態とは
次の状態に近づいていれば、
「会社としての基準がある」と言えます。
- 誰が対応しても、説明内容が変わらない
- 後から判断理由を説明できる
- 前例や感情に引きずられていない
逆に、
その場の判断に委ねている場合は、
まだ「基準がない状態」かもしれません。
まとめ
休職制度は、法律上の義務ではありません。
しかし、判断基準がないまま対応すれば、
会社にとって大きな実損につながる可能性があります。
休職対応で問われるのは、
結果ではなく、判断の過程と説明の一貫性です。
では、あなたの会社では、
- 休職の判断が、誰が対応しても同じ説明になりますか
- その判断を、後から説明できますか
もし少しでも不安があれば、
今のうちに「判断の物差し」を整えておくことが、
結果的に会社と従業員の双方を守ることにつながります。

