労務トラブルは「突然」起きていない

労務トラブルは、ある日いきなり発生したように見えることがあります。
しかし、実際には「その瞬間」だけを切り取っているに過ぎないケースがほとんどです。

私は社労士になる前、労働問題を扱う法律事務所で9年間、使用者側の案件に関わる法律事務員として勤務していました。
多くの労務相談や訴訟資料に触れる中で、ある共通点に何度も直面してきました。

~労働問題を扱う法律事務所で見てきた共通点とは~

本記事では、労働トラブルの現場で繰り返し見てきた共通点を、実務と法律の視点から整理します。

労務トラブルは本当に「突然」起きるのか

経営者の方から、次のような言葉を聞くことは少なくありません。

  • 「ある日、突然、弁護士から連絡が来た」
  • 「まさか、ここまで大きな話になるとは思わなかった」

ただ、法律事務所での経験や、現在社労士としてご相談を受ける中で振り返ると、
“本当に何の兆候もなかった”ケースはほとんどありません。

小さな違和感や判断の積み重ねが、
後になって一気に表面化しているだけ、ということが多いのです。

「悪気はなかった」が通用しない理由

トラブルが表面化した場面で、経営者が口にされる言葉があります。

  • 「悪気はなかった」
  • 「そんなつもりではなかった」

この言葉自体が、事実でないと感じたことはほとんどありません。
意図的に問題を起こそうとしている経営者は、実際にはごく少数です。

しかし、労務トラブルの場面で問われるのは
**「気持ち」ではなく、「説明できる根拠があるかどうか」**です。

トラブルになる企業に共通していた状態

法律事務所で見てきた多くのケースには、次のような共通点がありました。

  • 社内ルールは「共有しているつもり」だった
  • 口頭での説明や慣習に頼っていた
  • 判断基準が担当者ごとに異なっていた
  • なぜその判断をしたのか、記録が残っていなかった

社内では問題なく回っているように見えても、
外から見たときに「根拠が確認できない状態」になっていることが少なくありません。

法律が重視する「記録」と「説明可能性」

労務トラブルが紛争や裁判の場に進んだ場合、
判断の軸になるのは感情や善意ではありません。

労働契約法16条が求める「客観性」とは

例えば、労働契約法16条では、解雇について
「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」は無効とされています。

ここでいう「客観的」「合理的」とは、

  • 誰が見ても
  • 後から確認しても
  • 書面や記録によって説明できる

状態を指します。

善意や認識の一致だけでは足りない理由

「そういう認識だった」「当たり前だと思っていた」
という説明だけでは、法的な評価には足りません。

記録として残っているか、判断の根拠が示せるかが、
後になって大きな差になります。

どの段階で立ち止まれていればよかったのか

多くの案件を振り返ると、
「この段階で一度立ち止まれていれば」と感じる場面があります。

  • ルールを決めたとき
  • 運用を変更したとき
  • 例外対応をしたとき
  • 違和感を覚えたとき

そのタイミングで、

  • 法的に問題がないか
  • 記録として残すべきか
  • 説明できる形になっているか

を整理していれば、
早い段階で対応していれば、トラブルを防げたと考えられるケースは少なくありません。

「起きる前に立ち止まる」労務管理へ

労務管理は、経営者を縛るためのものではありません。
むしろ、経営判断を守るための「防御の仕組み」です。

「起きてから対応する」のではなく、
「起きる前に立ち止まれる状態」をどう作るか。

その視点を持てるかどうかで、
労務トラブルとの距離は大きく変わります。

まとめ

  • 労務トラブルは、突然起きているように見えるだけのことが多い
  • 多くのケースで「記録」や「判断根拠」が曖昧だった
  • 法律は善意ではなく、客観性・説明可能性を重視する
  • 早い段階で立ち止まることが、最大の予防策になる

労務トラブルを「起きてから考える」のではなく、
「起きる前に立ち止まれる状態」をどう作るか。
その視点が、結果的に経営を守ります。

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